国土交通省の工事書類の簡素化の取り組みまとめ【発注者支援業務】

国土交通省では現在、工事書類のスリム化(簡素化)を推進すべく、さまざまな取り組みを行っています。
発注者支援業務は工事書類を作成することはほぼありませんが、書類をチェックする側として、今後の簡素化の方向性は掴んでおく必要があるでしょう。
そこで今回は土木工事電子書類スリム化ガイドの内容に従い、書類作成の簡素化に向けた取り組みを紹介します。
目次
工事書類のスリム化(簡素化)が推奨されている背景
国土交通省では平成10年頃から工事書類の整備が行われており、工事書類の簡素化は長年の課題となっています。
その最大の原因が、工事書類の膨大な量にあります。
約6~7年前の日経ニュースでは、”4mの工事書類を1mに削減”という記事が取り上げられたほどでした。
これは、1つの工事で発生した紙の書類をファイルに綴じて並べていったところ、トータルで4mあったというものです。
しかもファイルは寝かせた状態ではなく、立てて並べた状態でそれだけの距離になったというから驚きです。
1mに削減とはつまり、4分の1に削減したということですね。
そして、大量の書類は工事が終わることに書庫に運び込まれるため、紙の書類が主流だった時代は、国土交通省のどの出張所においても非常に広大な書庫が設置されていました。
そこで工事書類の簡素化を実現すべく、平成20年度に策定されたのが土木工事書類作成マニュアル(現・土木工事電子書類スリム化ガイド)です。
土木工事電子スリム化ガイドとは、DXや働き方改革の推進に向け、現場技術員が徹底すべき取り組みを国土交通省がまとめたマニュアルのことです。
平成28年度に実施された工事関係書類スリム化(簡素化)点検をもって、土木工事電子書類スリム化ガイドが策定されました。
その後、工事書類の簡素化においてもさらにブラッシュアップがなされ、インフラDXや働き方改革推進の観点も盛り込む形で、令和3年に土木工事電子書類スリム化ガイドの内容が改定されました。
受発注者双方の働き方改革を推進しながら、円滑な工事の施工を図るため、同ガイドの記載事項は関係業団体および受注者、監督職員、検査職員、現場技術員・施工体制調査員すべてが周知徹底するものとして位置づけられています。
土木工事電子書類スリム化ガイドの改定以降、すべての書類は原則電子化されることとなり、書類作成にまつわるさまざまなルールも見直されるようになりました。
工事関連書類の種類
工事を行うにあたっては、契約書や仕様書、工程書、通知書など多種の書類が作成・管理されています。
作成時期も工事着手前、施工中、工事完成時・完成後とさまざまです。
次に工事関係書類の一例を記載します。
<工事着手前>
- 工事請負契約書
- 共通仕様書
- 発注図面
- 現場説明書
- 工事数量総括表
- 現場代理人等通知書
- 請負代金内訳書
- 工事工程表
- 施工計画書
- 施工体制台帳
<施工中>
- 関係機関協議資料
- 材料確認書
- 段階確認書
- 確認・立会依頼書
- 休日・夜間作業届
- 工事履行報告書
- 請負工事既済部分検査請求書
- 出来高内訳書
- 建設機械使用実績報告書
- 建設機械借用書
<工事完成時>
- 完成通知書
- 引渡書
- 請求書(完成代金)
- 出来形管理図表
- 品質管理図表
- 品質証明書
- 工事写真
- 総合評価実施報告書
- イメージアップの実施状況
- 工事管理台帳
<工事完成後>
- 低入札価格調査 (間接工事費等諸経費動向調査票)
では、次から具体的な取り組みを紹介していきます。
簡素化の取り組み1: 工事着手前の設計審査会で役割分担を明確化
工事書類は本来であれば、その内容や目的によって、発注者側か受注者側、どちらが書類作成をすべきか変わってきます。
しかし実際は、工事書類といえば施工会社が一括で作成をしていることが多かったのです。
たとえば、設計図書と現場に不整合があった場合、設計図書に修正を加え受注者側に変更内容を指示するのは本来、発注者側の業務です。
しかし実際は、あたかも発注者側が修正を指示したような資料を、受注者側が作成していました。
これでは本末転倒である上に、書類作成にかかる負担が受注者側にのみのしかかかってしまいます。
そこで、土木工事電子書類スリム化ガイドでは、書類作成に関する役割分担を設計審査会にて事前に明確化し、徹底しようということになりました。
設計審査会とは、工事の発注者と受注者が次の過程を経て、設計変更や選考施工承認のための協議を行う場のことです。
- 工事工程クリティカルパスの共有、工事工程の照合
- 協議資料作成等の受発注間の役割分担
- 設計変更の妥当性審議(設計変更ガイドライン活用)
- 設計変更手続きに伴う工事中止の判断等
なお、もともと設計審査会は設計変更審査会という名称でしたが、土木工事電子書類スリム化ガイドの改定をもって、改称されました。
設計審査会で確認された役割分担は、工事関係電子書類一覧表に反映され、目に見える形で明確化および管理されます。
たとえば、発注者側が書類作成を担うべきケースとしては、次のような事例があります。
- 土壌汚染対策法第4条1項に基づく届出
- 概算概略発注等のため関係機関協議が実施中、未了の場合(関係機関との設計・施工協議、占用物件の移設の調整、監督処分)
- 設計図書、条件明示と現場との不整合による設計図書修正 (構造計算の伴うものや大幅な修正)
簡素化の取り組み2: 施工計画書の提出と内容について
施工計画書とは、工事目的物を完成するために必要な手順や工法等について記した書類のことです。
施工計画書には次の内容の記載が必要とされています。
- 工事概要
- 計画工程表
- 現場組織表
- 指定機械
- 主要船舶・機械
- 主要資材
- 施工方法(主要機械、仮設備計画、工事用地等を含む)
- 施工管理計画
- 安全管理
- 緊急時の体制及び対応
- 交通管理
- 環境対策
- 現場作業環境の整備
- 再生資源の利用の促進と建設副産物の適正処理方法
- その他
従来は、工事を受注したら1度は施工計画書を提出しなければならないという風潮があり、工事内容がわからないままに施工計画書を提出するといったケースもありました。
しかし工事内容が明確にわからない段階で作成された施工計画書は後に修正が入る可能性が高く、結果無駄な労力となります。
そこで不要な施工計画書の作成を防ぐべく、次のような取り決めが設けられました。
つまり、施工内容が確定されてない段階での施工計画書の提出は不要ということです。
また、準備工の段階においても、必要最小限の項目についての施工計画書を提出すれば良いという風に簡素化されました。
本工事に入る前の準備として、現場で仮設事務所を建てたり、仮囲いを設置したりと、工事の施工及び完成に必要とされる各種の工事のことを指します。
準備工の施工計画書に必要な事項は次の通りとされています。
- 現場組織表
- 準備工の施工方法
- 安全管理
- 緊急時の体制および対応
- 再生資源の利用と建設副産物の適正処理方法(必要に応じ提出)
また、工事に変更はつきものですが、変更時の変更施工計画書の提出については次のように記載されています。
つまり、小さな変更が起こるたびに施工計画書を提出し直すような手間は必要なくなったということです。
簡素化の取り組み3: 工事打合せ簿の添付資料について
工事打合せ簿とは、発注者側と受注者側が打ち合わせを行う際に使われる書類のことです。
発議事項として、指示・協議・通知・承諾・報告・提出と6つの項目があり、原則、発注者と受注者のやり取りはこの6つの枠組みの中で行われます。
打合せ簿に関する簡素化としては、次のような取り決めがあります。
従来、受注者側は発注者側への気遣いから、打合せ簿にさまざまな資料を添付する傾向がありました。
しかし今回、説明用飼料や図面については既存資料を活用し、過度な資料は不要となりました。
また、共通仕様書やWeb上で閲覧できる基準類については、コピーの添付が一切不要となっています。
発注者側においても受注者側に過剰な説明資料は求めないこととされ、今までの慣習にメスを入れる内容となっています。
まとめ
今回は、発注者支援業務が知っておきたい工事書類の簡素化について、国土交通省が推進する取り組みを紹介しました!
本記事のポイントは次の通りです。
- 工事書類の膨大さは長年の課題だった
- 工事書類は原則電子化、そして簡素化の傾向にある
- 書類作成の役割は発注者、受注者で明確に分担すること
- 施工計画書は工事内容が明確になってからの提出で良い
- 工事打合せ簿の添付資料は既存資料を活用、Web上で確認できるものは添付不要
工事書類のスリム化(簡素化)を通じて、今後、現場の働き方も大きく変わっていくと思われます。
次回も引き続き、工事書類の簡素化についての取り組みを紹介します!
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