【発注者支援業務と民間の違いとは?】仕事内容や仕事の達成感も変わる?
この記事は以下の記事の続きです。
前の記事を読んでいない方は、こちらの記事もご覧ください。
前記事では、発注者支援業務の”工事監督業務”と民間企業の”施工管理業務”を比較し、勤務内容の違い(勤務地・勤務時間・残業・休日など)について解説しました。
本記事では次の8つの点を取り上げながら、引き続き、発注者支援業務と民間企業における違いを紹介します。
- 書類の取り扱いの違い
- 予算管理の違い
- 調整業務の違い
- 技術面の違い
- 先進的取り組みの違い
- 達成感の違い
- 決定権の違い
- マネジメントの違い
前記事よりさらに業界のことが理解できる内容となっていますので、発注者支援業務に興味のある方はぜひご覧ください!
目次
1. 発注者支援業務と民間の書類の取り扱い違い
工事を行う際は施工計画書や安全関係の書類など、さまざまな書類が発生します。
書類に関する業務は、発注者支援業務と民間企業で次のように役割が二分しています。
- 民間企業…書類をゼロから作成する
- 発注者支援業務…提出された書類をチェックする
発注者支援業務における書類業務は、昔だとよく”赤ペン仕事”や”付箋付け仕事”と呼ばれていました。
提出された書類に対して「ここが違います」「この部分を直してください」という風に修正指示を出す仕事だからです。
今は書類が電子化しているため、修正はペンや付箋を使うアナログ作業ではなくなりました。
このような発注者支援業務と民間企業の役割分担は施工時でも同じです。
“鉄筋組み立て”の工程があれば、民間の施工管理業務は実際に鉄筋を組む作業を行いますが、発注者支援業務はあくまで出来上がったものをチェックする役割を担います。
当然、鉄筋を組む上でのプロセス確認は発注者支援業務が随時行いますが、あくまでも作業に参加しない点は変わりません。
工事にかかる書類の種類
工事を行うにあたっては、契約書や仕様書、工程書、通知書など膨大な種類の書類が作成・管理されています。
作成時期も工事着手前、施工中、工事完成時・完成後とさまざまです。
次に工事関係書類の一例を記載します。
<工事着手前>
- 工事請負契約書
- 共通仕様書
- 発注図面
- 現場説明書
- 工事数量総括表
- 現場代理人等通知書
- 請負代金内訳書
- 工事工程表
- 施工計画書
- 施工体制台帳
<施工中>
- 関係機関協議資料
- 材料確認書
- 段階確認書
- 確認・立会依頼書
- 休日・夜間作業届
- 工事履行報告書
- 請負工事既済部分検査請求書
- 出来高内訳書
- 建設機械使用実績報告書
- 建設機械借用書
<工事完成時>
- 完成通知書
- 引渡書
- 請求書(完成代金)
- 出来形管理図表
- 品質管理図表
- 品質証明書
- 工事写真
- 総合評価実施報告書
- イメージアップの実施状況
- 工事管理台帳
<工事完成後>
- 低入札価格調査 (間接工事費等諸経費動向調査票)
2. 発注者支援業務と民間の予算管理の違い
発注者支援業務と民間企業では”予算管理”の違いもよく言われるところです。
民間の建設会社で”現場所長”や”現場代理人”など、上の立場の人間になると、「良い物が出来れば良い」というわけにはいかなくなります。
つまり民間企業である以上、公共工事に関わっているとは言え、きちんと利益を出さなくてはいけません。
いくら発注者の希望通り高品質のものを作っても、赤字になってしまっては元も子もないということです。
そのため民間の施工会社では「この工事をどのように実行するか?」という“実行予算”を組み、その予算に費用や経費を収めた上で利益を追及することが求められます。
今はどちらかと言えば公共工事における落札率が高い傾向にありますが、昔はすごく安い時期がありました。
そういった状況の中で利益を出すのは至難の業です。
”良い物をつくる”だけならまだしも、”工期内に工事を終わらせなければいけない”そして”利益を出さなければいけない”ことが求められる民間の仕事は「キツイ」と感じる人も多いようです。
一方、発注者支援業務の場合は、予算や利益管理にはノータッチと言えます。
発注者支援業務はあくまで”仕様書やルールに則って工事ができているか”を確認する仕事なので、ルールに則っていなければ、現場の利益や工数に関係なく指摘しなければいけない義務があるからです。
よって逆に利益の問題に関与してしまうと、純粋な検査ができなくなってしまいます。
こういった側面から、民間の予算管理業務を「辛い」と感じた人が発注者支援業務へ転職することもよくあります。
現場所長と現場代理人の違い
現場所長とは、現場で施工管理をしている”現場監督”達のトップであり、その現場の責任者のことを指します。
“現場代理人”は建設業法上定められている用語で、実質は”現場所長”のことです。
つまり現場で”所長”と呼ばれている人であっても、書類上に自身の身分を記載するときは”現場代理人”になるということです。
現場所長および現場代理人は、“監理技術者”や”統括安全衛生責任者”と兼務する場合も多いです。
落札率とは
落札率とは、”落札金額÷予定価格×100(%)”で求められる予定価格に対する落札金額の割合のことです。
また予定価格とは、契約を締結するにあたって人件費や材料費などのコストを考慮し、積算した上で設定する落札基準価格のことです。
通常は、この予定価格以下で安い入札金額を提示した業者の中から落札会社が選ばれます。
たとえば予定価格が8,000万円の工事を7,200万円で落札した場合、落札率は90%です。
このように、民間の施工会社が自社の利益を最大化したい場合、高い落札率で契約を締結することが1つのポイントとなります。
3. 発注者支援業務と民間の調整業務の違い
発注者支援業務の工事監督の特徴は、調整的な仕事が多いことです。
発注者と施工業者の間に入り、業者側から上がってきた協議内容をもとに話を進めたり、打ち合わせしたりといった業務がほぼメインになります。
また前記事の”5.発注者支援業務と民間で担当する工事の違い”の項目で少し触れましたが、発注者支援業務は現場で測量などの作業をすることはないので、現場の滞在時間も1〜2時間のケースが多いです。
民間でも調整業務はありますが、こちらは職人の調整をしたり、現場の段取りを行うので、同じ調整業務でも少し毛色が異なります。
また民間の場合は調整業務と同時に、測量・書類作成・現場の指示出しといった幅広い業務を行います。
ここが発注者支援業務とは大きく異なる点です。
4. 発注者支援業務と民間の技術面の違い
発注者支援業務をある程度経験すると、法令や仕様関係に詳しくなります。
なぜなら発注者支援業務の仕事は、工事のプロセスが設計書通りに進んでいるか、ルールがきちんと守られてるかという点をチェックすることだからです。
必然“標準仕様書”などの技術資料を読む頻度も多くなるので、技術的な知識・スキル・リテラシーは向上しやすいです。
こういった仕事柄、「発注者支援業務は頭でっかちな仕事だ」と言う人も昔はよくいましたね。
これが民間の施工管理の仕事だと、どうしても”工事を工期内に終わらせる”、”いいものを作る”さらに”利益を出す”ことに重きを置くようになります。
もちろん民間企業だと技術面や知識が身に付かないというわけではありませんが、発注者支援業務とは少々視点が異なるかと思います。
標準仕様書とは
標準仕様書とは、工事を実施するために使用する材料、機材、工法など、あらゆる基準が定められた書類のことです。
どの工事にも共通する事項と、鉄骨工事や舗装工事など工事の種類別の事項のいずれもが記載されています。
公共工事では標準仕様書に基づいた設計・工事が原則とされているため、建築基準法とならんでよく目を通される書類の1つです。
5. 発注者支援業務と民間の先進的取り組みの違い
発注者支援業務は行政側の仕事なので、先進的な取り組みを目にすることが多くあります。
私が国土交通省で発注者支援業務をしていたときの一例をあげると、”施工の状況・プロセスを確認するためのチェックシート”が初めて導入されることになりました。
そのプロセスシートをまず試験的に導入するということで対象になったのが、当時私が勤務していた出張所だったのです。
つまりプロセスシートが初めて国で導入され、そこに記入をした第一人者が私ということです。
発注者支援業務はみなし公務員としての守秘義務がありますから、その取り組みについて口外することは許されませんが、こういった国や行政の取組みに最前線で接すると、仕事のモチベーションに繋がりますね。
この点は発注者支援業務ならではと言えます。
また発注者支援業務は民間業者とは違い、1年に5~10件の工事を担当するので、いろんな工事が見られるといったメリットもあります。
新しい技術提案を目にするチャンスも、頻度としてそう多くはありませんが、民間と比較すれば多い方です。
みなし公務員とは
みなし公務員は、一言で表すと”正式な公務員ではないが、公共的なサービスに従事する人”のことです。
別名”準公務員”とも呼ばれています。
発注者支援業務は役所の仕事を支援するので、公務員と思われがちですが、実際はこのみなし公務員という位置づけになります。
また、みなし公務員は行政の仕事をする以上、公務員とまったく同じではないものの、ある程度公務員に準じた規制が課されています。
みなし公務員の守秘義務について
みなし公務員に課されるルールの根拠となっている法律に”公共サービス改革法(競争の導入による公共サービスの改革に関する法律)”があります。
こちらでは守秘義務について次のように定められています。
「守秘義務規定は、対象となる公共サービスの実施に従事する者が、公共サービス
の実施に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用することを禁止するもので、違反
した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる。」
6. 発注者支援業務と民間の達成感の違い
発注者支援業務は平たく言えば”工事の確認・検査”を行う業務なので、工事物が完成したときの達成感、やりがいは民間と比べると少ないかと思います。
この点は発注者支援業務のデメリットと捉える人が多いかもしれません。
これが民間の施工管理業務だと、何もないところから自分で測量を行ったり、職人との調整を行ったり、現場に深く関わっていますから、やはり「できた!」という感動は大きいですね。
7. 発注者支援業務と民間の決定権の違い
発注者支援業務は基本的に決定権を持ちません。
たとえば現場で予想外のことが起きたとします。
そこで「さあ、どうするか?」という判断・意思決定は基本的に発注者側(国土交通省)の職員に求められるのです。
発注者支援業務が相談にのっていろいろやることもありますが、あくまでどうするかは発注者である国土交通省の職員が決定します。
見方を変えると、発注者支援業務は現場の責任をある程度免除されているとも言えますね。
発注者支援業務は現場への指示・承諾もできない?
発注者支援業務は決定権を持たないため、現場職員への指示や何かを承諾することも禁じられています。
以下は国土交通省の『発注者支援業務など説明資料』の一文です。
工事監督支援業務に携わる者は工事受注者に対して指示、又は承諾を行ってはならない。あくまでも、工事受注者に対する指示、承諾は発注者が行います。
8. 発注者支援業務と民間のマネジメントの違い
その他の違いでよく言われるのは、マネジメントの違いです。
民間の施工管理をある程度していると、現場代理人や現場所長など、現場を仕切るポジションまで登りつめられます。
つまり現場における”社長”や”経営者”といった立場になるので、実行予算を扱って現場を仕切ることになります。
このような「この現場は俺がマネジメントしている」という気分を味わえる点は、民間の施工管理業務のメリットと言えます。
前述の通り、発注者支援業務は”発注者”と”業者”の架け橋的ポジションなので、そういう立場にはなりえません。
逆に言うと、そういう”現場をマネジメントする大変さ”がないのが発注者支援業務とも言えます。
まとめ
最後に本記事でご紹介した発注者支援業務と民間の違いを表にまとめます。
民間企業 |
発注者支援業務 |
|
書類の取り扱い | 書類を作成 | 提出された書類をチェック |
予算管理 | あり | なし |
調整業務 | 職人との調整
現場の段取り・工程の調整 |
発注者と施工業者の間で調整 |
技術面 | 実務を通して身に付く | 技術資料を読む頻度が多いため、知識・リテラシーが伸びやすい |
先進的
取り組み |
取り組みを目にすることは多くない | 行政側の仕事に携わるため、取り組みを目にする機会が多い |
達成感 | 達成感が大きい | 達成感が少ない |
決定権 | 発注者との協議を経て決定される | 決定権はない |
マネジメント | あり | なし |
この記事の内容は以下の動画で解説しています。
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