発注者支援業務はみなし公務員!公務員との違いと注意点を解説!
発注者支援業務とは、公共工事の発注者を支援する業務です。
発注者が省庁や自治体などの”官”であることから、「発注者支援業務者は公務員じゃないの?」と思う方も多いのではないでしょうか。
しかし実際のところ、発注者支援業務は”みなし公務員”に該当します。
今回は以下の内容について解説します。
- みなし公務員とは何か
- みなし公務員と公務員との違い
- みなし公務員に課せられるルール”公共サービス改革法”について
- 発注者支援業務が事件になるケース
発注者支援業務の仕事をする場合、公務員と線引きをするためにも”みなし公務員”の立場、ルールを知っておく必要があります。
発注者支援業務の仕事に興味のある方はぜひ参考にしてください。
目次
1. みなし公務員と公務員との違いとは?
“みなし公務員”という言葉に馴染みのない方も多くいると思います。
この見出しでは”みなし公務員”とは何かを説明し、公務員とみなし公務員の違いについて解説します。
みなし公務員とは
みなし公務員は、一言で表すと”正式な公務員ではないが、公共的なサービスに従事する人”のことです。
役所を覗くとわかりますが、働いている人全員が公務員ということはありませんよね。
業務を外部に委託しているケースも多々あります。
発注者支援業務は役所の仕事を支援するので、公務員と思われがちですが、実際はこの“みなし公務員”という位置づけになります。
ちなみに、みなし公務員は発注者支援業務に限らず他の職種でも存在します。
みなし公務員に該当する職種
みなし公務員は”準公務員”とも呼ばれ、次のような職種が該当するとされています。
- 日本郵便株式会社の従業員
- 日本銀行の役職員
- 駐車監視員
- 指定弁護士
- 国立大学法人の職員
- 技能検定委員
- 軽自動車検査協会の役職員
- 自動車検査員
- 日本弁護士連合会の会長
- 日本年金機構の役職員
- 国民年金基金
- 厚生年金基金
- 企業年金連合会の役職員
など
公務員とみなし公務員の違い
みなし公務員と公務員では具体的にどのような点が違うのでしょうか?
最も大きな違いは、公務員にはさまざまな規制があることです。
民間の会社員でも守るべき規制はありますが、公務員はやはり公務に従事するだけあって、規制も厳しくなっています。
ここでは公務員の特徴的な規制を3つご紹介します。
- 守秘義務
- 贈収賄(ぞうしゅうわい)
- 職権乱用
順に説明します。
守秘義務
最も代表的なものは、守秘義務です。
役所の中に入ると当然、個人情報や行政に関するさまざまな情報を知ることになります。
よって、そういった情報を外部に漏らしてはいけないという守秘義務があります。
一般企業にも守秘義務はありますが、公務員のそれは少しスケールが違う感じがしますね。
【公務員の守秘義務について】
守秘義務で守られるべき秘密には”職務上の秘密”と”職務上知り得た秘密”の2種類があります。
前者は仕事に従事する上で知り得たすべての秘密のことです。
たとえば、公売における最低入札価格や人事評価の内容、未発表の建設計画、試験問題など、公表されると一定の目的を果たせず、行政の利益を害するものを指します。
後者は職務上の秘密の他、仕事を通じて知った個人の秘密、たとえば個人の納付税額や生活状態、人間関係、病歴、生い立ちなどが含まれます。
また公務員の場合、職務の遂行中か否かにかかわらず、公務員という身分に就いた限りは守秘義務を負うものとされています。
したがって、勤務時間外・休職時・停職時・休暇中、さらに退職後も守秘義務を守らなくてはいけません。
国家公務員法・地方公務員法においては、守秘義務を破った違反者は「最高1年の懲役又は最高50万円の罰金に処せられる」としています。
贈収賄(ぞうしゅうわい)
贈収賄はよくニュースでも取り上げられていますね。
「出入りの業者等から金銭や物品をもらってはいけません」ということです。
民間の建設業の場合、たとえば下請け業者が元請け業者を接待しても問題はありません。
しかし公務員が、元請けの受注した工事会社から接待を受けるのはルール違反となります。
【贈収賄(ぞうしゅうわい)の罪について】
賄賂(わいろ)とは、自分の有利になるよう取り計らってもらうことを目的として贈られる不正な贈物のことです。
注意したいのは、賄賂は金品など形のあるものだけでなく、利益になること一切を指すということです。
つまり飲食店でのサービスやゴルフ接待、旅行への招待、値引き、職のあっせんなども賄賂と判断される場合があります。
こういった賄賂を受け取ったり、贈ったりすることを贈収賄と言います。
刑法では、贈収賄の種類によって7パターンの罰則を設けています。
- 単純収賄罪
- 受託収賄罪
- 事前収賄罪
- 第三者供賄罪
- 加重収賄罪
- 事後収賄罪
- あっせん収賄罪
順に説明します。
1. 単純収賄罪
収賄罪の基本パターンです。
賄賂を要求したり受け取ったときの罪です。
2. 受託収賄罪
公務員が職務に関する要求・依頼を受けて、単純収賄を行った際の罪です。
つまり「賄賂を渡すので、このようなことをしてください」と依頼を受けて、賄賂を受け取ることです。
単純収賄罪より罪が重いとみなされます。
3. 事前収賄罪
これから公務員になろうとする人が、将来担当する職務に関する要求・依頼を受け、賄賂を要求したり、受け取ったりしたときの罪です。
ただし合格試験に落ちるなど、公務員にならなかった場合は罪として成立しません。
4. 第三者供賄罪
公務員が職務に関する要求・依頼を受け、第三者を通じて賄賂を受け取ったり、要求したりした場合はこの罪に該当します。
5. 加重収賄罪
賄賂を受け取った上で、公務員の職務において不正な行為を行った際の罪です。
公務員による不正行為は社会的影響が甚大なため、収賄罪の中でも特に重い罪とされます。
6. 事後収賄罪
過去に公務員だった人が、在職中、職務に関する要求・依頼を受けて不正行為を行い、賄賂を要求したり受け取ったりした場合の罪です。
7. あっせん収賄罪
公務員が職務に関する要求・依頼を受けて、他の公務員に不正行為をさせた場合の罪です。
職権乱用
公務員という地位を利用して、自分の利益になるようなことを「ああしろ」「こうしろ」と指図するのは職権乱用にあたります。
【公務員の職権乱用のポイント】
刑法193条には”公務員職権濫用罪”という罪が記載されています。
「公務員がその職権を濫用し、人に義務のないことを行わせ、または、行うべき権利を妨害したときは、2年以下の懲役または禁錮に処せられる」
ポイントは、公務員がその職権を不当に利用した場合のみ、罪が成立するということです。
公務員であっても、ただ人に義務のないことを負わせただけでは職権乱用罪には該当しません。
また「行うべき権利を妨害したとき」はイメージしづらいかもしれませんが、たとえば本来なら誰でも入れる公共施設への立ち入りを禁止した場合などが例として挙げられます。
公務員は税金から給料をもらって働いている立場なので、前述のようなしっかりとした規制があります。
一方、発注者支援業務を行う人達は、立場的には民間になります。
しかし国土交通省の職員の代行業務を行う等、公務員の方達と同じ属性の仕事を行っています。
そうすると、公務員の人が職務上で知るような、個人情報や行政のさまざまな情報が耳に入ってきます。
仕事上の“立場”も、業者側から見ると発注者支援業務が公務員なのか、民間なのかわかりません。
この立場が悪用されると、発注者支援業務が公務員的職権を振りかざして、業者に横柄な態度を取ったり、収賄を受け取ったりしてしまう可能性も出てきますよね。
それではダメだということで、発注者支援業務は公務員ではなく、みなし公務員だと線引きされているわけです。
2. みなし公務員に課せられるルール
前の見出しでは公務員のルールについてご紹介しましたが、みなし公務員にも次のような規定があります。
「刑法その他の罰則の適用に関しては、法令により公務に従事する職員とみなす」
つまり『みなし公務員は、公務員とまったく同じルールを適用することはないけれど、ある程度公務員に準じた規制を課しますよ』という意味ですね。
こちらの規定のもとになっている法律は”競争の導入による公共サービスの改革に関する法律”です。
長い名前ですね。
略して”公共サービス改革法”とも言います。
発注者支援業務、ひいてはみなし公務員はこの法律の対象になっています。
3. みなし公務員の法律”公共サービス改革法”とは
公共サービス改革法の正式名称は“競争の導入による公共サービスの改革に関する法律”です。
要は、役所の業務をすべてまかなうのではなく、民間にできることは民間に任せる。
そうすることで公共サービスの改革(質の維持・工場、経費の削減)を目指そうということですね。
4. みなし公務員規定について
公共サービス改革法には、“みなし公務員規定”という規定があります。
次に一文を引用します。
“いわゆるみなし公務員規定は、公共サービスの実施に従事する公務員以外の者を、刑法上の公務員とみなす事を定めるもので、この規定によってこれらの者に関しても、刑法の贈収賄の罪や公務執行妨害罪等を適用することが可能となり、適正な業務の運営に資するものである”
要約すると、「みなし公務員になると公務員と全く同じではないけれど、いろいろ刑罰も課されるよ」ということです。
それから発注者支援業務は”建設コンサルタント”と呼ばれる会社が担うのですが、その会社自体にも規定が適用されます。
該当部分を次に引用します。
“民間事業者に対する監督としては、公共サービスの適正かつ確実な実施を確保するため必要な場合に、国の行政機関の長や、地方公共団体の長などが民間事業者に対して報告の徴収・立入検査や必要な指示を行うことができるものとした上で、刑事罰等によって実効性を担保している”
こちらも要約すると、「発注者支援業務を行う場合、働く個人だけでなく、所属元である建設コンサルタントにも規制をかけますよ」ということです。
発注者支援業務の立場はあくまで民間ですが、上記の通り、公務員に準じたような規制・ルールがかけられています。
5. 発注者支援業務が事件になるケース
発注者支援業務はその仕事の特性上、事件になることも多く、ニュースで取り上げられたことも少なくありません。
発注者支援業務はさまざまな業務がありますが、最も事件に繋がりやすい業務は”工事監督支援”です。
工事監督支援とは、要するに工事の検査を行う仕事です。
ゼネコンが施工した工事物を発注者支援業務のスタッフが、配筋検査を行なったり、何かしらの検査をしたりとチェックをします。
そこで”手心”を加える、つまり検査確認を甘くするといったケースが最も典型的な犯罪のパターンですね。
そんなこともあり、工事監督支援業務は最も”みなし公務員”らしい、代表的な職種だと言われています。
配筋とは、工事にあたって鉄筋コンクリートを配置すること、鉄筋コンクリートを組み立てることを指します。
配筋検査においては、鉄筋が設計図通りに配置されているか(径や本数、間隔などのの確認を含む)を確認していきます。
まとめ
発注者支援業務の立場は民間ですが、仕事の属性は公務員と変わりません。
よって、行政のさまざまな情報も耳に入ってきます。
また業者側からすれば、立場的にも公務員と同等のように扱われるので、発注者支援業務に従事する人は少し混乱するかもしれませんね。
実際のところ、発注者支援業務は”みなし公務員”であり、純粋な公務員ではありません。
今後働く方は、”発注者支援業務はみなし公務員にあたる”ということを1つ注意点として覚えておいた方がいいと思います。
この記事の内容は以下の動画で解説しています。
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