撮影も測量も書類作成もナシ!発注者支援業務でやらない仕事12選!【後編】
この記事は以下の記事の続きです。
前の記事を読んでいない方は、こちらの記事もご覧ください。
発注者支援業務では取り扱わない民間の施工管理業務を”働く環境編”と”実際に行う作業編”に分け、各6つずつ紹介しています。
前記事では”働く環境編”の6つを紹介しました。
- 職人・業者の調整
- 現場への直行直帰
- 朝礼
- 1日中現場にいる
- 実行予算
- 工程管理
今回は”実際に行う作業編”として、次の6つを取り上げます。
- 新規入場者教育
- 測量・墨出し
- 材料手配.
- 工事書類作成
- 施工図
- 工事写真の撮影
それでは順に解説します!
目次
発注者支援業務でやらない仕事7: 新規入場者教育
新規入場者教育とは、現場に出入りする新規の人に対して、施工管理側が現場のルールや安全に関する注意などを指導することです。
いわば新入社員教育のようなものですね。
ただ、新入社員教育は業務のやり方についての指導がメインですが、新規入場者教育の内容は、工事の目的や意図、危険な場所、重機についての周知、本日の作業内容など多岐にわたります。
新しい人が入ってくるごとにこの指導を行うため、かなり大変です。
特に建築では数十もの業者が関わることも多く、例えばタワーマンションの建設の場合だと約1,000~2,000人の職人が出入りします。
最初から全員が揃っているわけではなく、工程が進むにしたがって人員が増えていくので、新規入場者教育の頻度も多くなっていきます。
また、新規入場者教育は書類管理も大変です。
新規入場者教育を修了した各受講者にサインをもらい、その書類をきちんと保存・管理する必要があります。
このように教育からデータ管理まで手間と労力のかかる新規入場者教育ですが、発注者支援業務はこの仕事を行いません。
新規入場者教育にまつわる一連の業務は、工事をする上での安全管理プロセスに該当し、発注者支援業務がプロセスの管理に関わることはないからです。
新規入場者教育について
建設現場では入場1週間以内に被災するケースが多発しています。
こういった状況を防ぐためにも現場の状況・ルール、安全作業に必要な事項などを新規入場者に教育することが求められています。
厚生労働省による資料では、新規入場者教育の基本的事項として次のような内容を含めるよう示しています。
- 所長方針
現場所長の方針・重点実施事項等(方針には安全に関する方針を盛り込む) - 工事概要
工事名称・工期・建物の構造・発注者名・設計者名・施工者名 - 施工管理体制
元請の工事事務所の組織図や安全衛生管理体制等について - 現場配置図
施工現場の平面図に施工範囲・出入り口・工事事務所までの決められた通勤通路・休憩所・トイレ・喫煙場所等を図示する - 車両・通勤・交通
現場の始業時刻・工事車両(通勤車両・資機材搬入車両等)の敷地外駐車場から現場への入場ルート・現場内の工事用駐車場の位置・守衛が不在の場合の現場入退場の方法・現場内の制限速度・高さ制限等の車両走行時の現場ルールなど - 基本事項
朝礼・TBM・KY活動への参加、保護具の着用、有資格者の配置、持ち込み機械の点検や許可ルール、必要となる養生措置、火災や事故発生時の報告等、工事施工の前提となる基本的な事項を記載する。
※TBM(ToolBoxMeeting)…危険予知訓練のこと。
事故や災害を未然に防ぐため、作業従事者が作業にかかる前にミーティングを行い、作業内容や工程・問題点を共有することを指します。
※KY活動…危険予知活動のこと。
労働災害が発生する直接の原因は”不安全な状態”と”不安全な行動”に大別されると言われています。
よって、作業の中に隠れている”不安全状態”の発生や”不安全行動”を行ってしまう心理状態を事前に明らかにし、作業者自身が対策を考える自主的な安全活動を指します。
- 現場の独自ルール
現場の施工環境や、近隣協定等で遵守しなければならない現場特有のルール・所長方針等で取り決めているルールについて - 品質・環境・その他
品質管理のための施工要領書や作業手順の遵守・施工出来ない場合の元請社員との協議・清掃と整理整頓の実施・産業廃棄物の分別と指定場所への廃棄・煙草の吸殻の始末等について - 職長の皆さんへ
職長会活動・作業間連絡調整会議への積極的な参加・KY用紙と作業安全指示書の記入・作業終了時の報告など、職長の遵守すべき事項について
発注者支援業務でやらない仕事8: 測量・墨出し
測量・墨出しは、物を作るための施工プロセスに当たる業務です。
よって、状況確認や検査業務をメインとする発注者支援業務は、このプロセスで指示や作業を行うことはありません。
測量業務は、特に土木系では「施工管理における6~7割の労務は、測量業務が占める」と言われているほど、時間や労力が必要とされる仕事です。
今はレーザースキャナーなどの導入でだいぶ楽に測量ができるようになりましたが、それにしてもデータの取りまとめ・管理の手間は外せません。
測量とは
測定とは、工事予定地の正確な位置(座標)・高さ・長さ・面積等をさまざまな専門器具を使って測定することです。
測量業務は屋外で行う外業と、事務所内で行う内業の2つに分かれます。
外業
外業とは屋外で行う測量作業のことです。
5人程度のチームを組み、GPSや関数電卓、セオドライト(角度を測る器械)、レベル(高低差を測る器械)、光波測距儀(光を使って距離を測る器械)などの専門機器を使って測量を実施し、そこで得た結果を保存します。
内業
内業とは測量士が事務所で行う作業のことを指します。
まず行うのは作業計画・測量計画などの立案です。
それから測量後は観測したデータをもとにさまざまな計算を行い、測量ソフトを利用して図面作成を行います。
完成した図面は製図機器を使って描画し、必要な書類が揃ったら発注者に提出します。
測量業務は複雑な地形や厳しい環境下でも正確な作業が求められるため、忍耐力が必要とされます。
また測量結果は開発計画や建設条件などにも大きく関わる要素なので、非常に責任の大きな仕事と言えます。
墨出しとは
墨出しとは、簡潔に言うと、実際の現場に実寸の設計図を書く仕事のことです。
キャンパスに下絵を描いていくようなイメージで、墨つぼという工具の1種を用いて施工における基準点や線を墨で記していきます。
墨出しの印は施工における基準点となるため、正確性を必要とされる他、現場に応じた臨機応変な対応や、作業のスピーディーさも求められます。
また、現在はレーザーによる墨出し器も活用されています。
発注者支援業務でやらない仕事9: 材料手配
たとえば生コンクリートを打とうと思ったら、打設する数量が何㎥なのかを拾って、材料を注文しなければいけません。
その数量拾い、および発注する作業は、発注者支援業務では行いません。
つまり、打設の当日になって「生コンが遅れてる!電話しなきゃ!」と焦る必要もないということです。
人によっては発注を忘れてしまうケースもありますが、発注者支援業務では、そもそもそういったプレッシャーと戦う必要がありません。
数量拾いとは
数量拾いとは、設計図面から必要な数量を求める作業のことです。
本文では生コンクリートの必要量を求めるための数量拾いが行われましたが、数量にはさまざまな単位があり、かかる人の作業量や時間などの単位も求めます。
また、工種の単位もあり、『掘削は㎥』『舗装は㎡』『縁石はm』と、それぞれの数量が導き出せるようになっています。
発注者支援業務でやらない仕事10: 工事書類作成
工事書類は膨大な数があり、特に土木は公共工事にあたるため、書類関係は役所の目が厳しいものです。
この工事書類をゼロから作るのは、民間の施工会社側の仕事です。
一方、発注者支援業務はその完成した書類が適性かチェックするのが仕事になります。
ゼロから書類を作ることと出来上がった書類を確認することでは、やはり後者の方が労力もプレッシャーも少ないでしょう。
また、書類作成におけるウェイトが多い割に、そればかりに時間をかけていられないことも書類業務が大変な理由の1つです。
昼間は現場へ行き、夜は測量データの管理や翌日の段取りを行う必要がありますが、その合間を塗って工事書類作成を行わなければなりません。
書類作成の必要がない発注者支援業務は、こういった時間のプレッシャーとも無縁と言えます。
工事書類の種類
工事を行うにあたっては、契約書や仕様書、工程書、通知書など膨大な種類の書類が作成・管理されています。
作成時期も工事着手前、施工中、工事完成時・完成後とさまざまです。
次に工事関係書類の一例を記載します。
<工事着手前>
- 工事請負契約書
- 共通仕様書
- 発注図面
- 現場説明書
- 工事数量総括表
- 現場代理人等通知書
- 請負代金内訳書
- 工事工程表
- 施工計画書
- 施工体制台帳
<施工中>
- 関係機関協議資料
- 材料確認書
- 段階確認書
- 確認・立会依頼書
- 休日・夜間作業届
- 工事履行報告書
- 請負工事既済部分検査請求書
- 出来高内訳書
- 建設機械使用実績報告書
- 建設機械借用書
<工事完成時>
- 完成通知書
- 引渡書
- 請求書(完成代金)
- 出来形管理図表
- 品質管理図表
- 品質証明書
- 工事写真
- 総合評価実施報告書
- イメージアップの実施状況
- 工事管理台帳
<工事完成後>
- 低入札価格調査 (間接工事費等諸経費動向調査票)
発注者支援業務でやらない仕事11: 施工図
まず、設計図と施工図の違いを説明します。
設計図は「こういう道路を作りなさい」「橋を作りなさい」といった施工に関する指示が書かれたものです。
しかし設計図だけでは細かい指示がわからず、職人が施工できない場合があります。
よって、設計図を読み解き、職人が理解できるように具体的に描いた図が施工図です。
建築の”タイル割り”を例としてみましょう。
設計図では「1m×1mの浴室の床に30cm四方のタイルを貼ること」とだけ書いてあります。
しかしその通りに貼ると、30cm・30cm・30cm・10cmとなってしまい、小さいタイルが目立って格好悪いですよね。
また、10cmのタイルを左右どちらに持ってくるべきなのかもわかりません。
そこで施工図を見ると「5cmのタイルを両端に貼り、5cm・30cm・30cm・30cm・5cmとしてください」と書いてあります。
こういったタイル割付のように、施工に関する細かな指示を描いたものが施工図です。
発注者支援業務は検査・確認する側ですから、もちろん施工図を描くことはありません。
発注者支援業務でやらない仕事12: 工事写真の撮影
工事写真も書類と同様、何百枚~何千枚といった数がありますが、こちらの撮影は民間の施工会社の仕事で、発注者支援業務は行いません。
工事写真撮影の主な目的は、施工プロセスの一環として証拠写真を残すことです。
よって、発注者支援業務はその写真を確認することが仕事になります。
発注者支援業務は現場臨場のときに写真撮影をする?
発注者支援業務も現場臨場したときは、自ら状況写真を撮るのでは?と思われがちですが、こちらも施工会社側が撮影をします。
つまり「発注者支援業務が現場臨場に来ている」という状況写真を、施工会社が撮影するということです。
このように、発注者支援業務自身が工事に必要な写真を撮ることは原則ありません。
発注者支援業務として必要な写真はありますが、工事に必要な写真を発注者支援業務が撮って、業者側に渡すといったことはありません。
番外編:写真撮影は記念撮影と言われていた?
昭和の終わり頃は、床付け確認が今より頻繁に行われていました。
実際にあったケースでは、護岸の基礎(幅30cm×高さ1m)を200~300mにわたって施工をしたときに、40mごとに確認していました。
つまり200mの距離ならば、5回も「きちんと掘れていますよ」という証拠写真を収めるのです。
そのシーンでは「発注者支援業務も臨場している」という状況証拠が必要になるため、発注者支援業務も被写体として参加します。
よって「〇〇さん、お願いしまーす」「〇〇さん、次ここでお願いしまーす」と頻繁に声を掛けられて写真に収まるので、”記念撮影”というとおり名になっていたのですね。
当時は施工会社側もシャッターを切る機会がずっと多く、大変だったと思います。
床付け確認とは
床付けとは、建物の基礎を建てる際などに地盤面を掘削し、水平に堀り整えることです。
仕上がった面を床付け面と呼びます。
本文で、床付け確認が頻繁に行われていた工事例をあげました。
あれはつまり、工事範囲の広い場合においても、床付け確認がきちんと深度を平行に保てているか確認していたということです。
まとめ
今回は、発注者支援業務でやらない民間の施工管理業務をテーマに、”実際に行う作業編”として次の6つを解説しました。
- 7. 新規入場者教育
- 8. 測量・墨出し
- 9. 材料手配.
- 10. 工事書類作成
- 11. 施工図
- 12. 工事写真の撮影
前記事の“働く環境編”と同様、民間の施工管理では当たり前とされている仕事・制約も、発注者支援業務ではかなり省かれていることがわかりました。
以上を踏まえ、発注者支援業務の仕事が自分にマッチしそうかどうか、判断の基準になれば幸いです。
この記事の内容は以下の動画で解説しています。
理解を深めたい方はこちらの動画もご覧ください。