設計変更の精算の後回しはトラブルの元になることがよくある?実例のトラブル事例から解説

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発注者支援業務の工事監督業務では設計変更が度々あります。

今回は、「建設工業新聞」に2023年7月に掲載されていた市役所と受注者の間で起きた”設計変更で揉めてしまった記事”から発注者支援業務の工事監督業務でよくあるトラブルを解説いたします。

発注者支援業務で働くなら必ず知っておくべき内容ですので、ぜひご覧ください。

本事案の概要

地方公共団体(市)と建築工事を専門とする建設企業JV(ジョイント・ベンチャー)の受注者との間で発生した問題です。

工事の遂行とともに多くの変更事項が顕在化し、最終的に100以上の契約内容の変更が確認されたが受発注者間の合意に至らず、中央建設工事紛争審査会の仲裁に持ち込まれました。

工事概要

■建造物:地域コミュニティセンター。鉄筋コンクリート造2階建 延べ床面積約2,800平方メートル

■請負金額:約3億6千万円

■工事期間:2003年7月~2004年9月(15ヵ月)

■工事内容と契約:

受注者の提示した価格約3億6千万円に対し、発注者の予定価格は約4億5千万円で落札率は80%。

発注者は低価格入札審査の対象とし審査後、契約がなされた。

■問題の発生:

工事の遂行とともに多くの変更事項が顕在化し、最終的に100以上の契約内容の変更が確認されたが、受発注者間の合意に至らず、中央建設工事紛争審査会の仲裁に持ち込まれた。

■紛争に至った経緯:

受発注者間の契約変更協議は発注者の意見で事象が発生した時点ではなく、竣工時に一括して行うことになった。

工事竣工まで残り2ヵ月となった時点で、発注者は受注者に契約額変更内訳を対象項目ごとに作成し提出するように指示。

受注者は1週間後に101項目の変更工事の内訳書(約90ページ)を作成し発注者に提出し、変更工事の内訳書の総額は約980万円だった。

発注者は受注者から内訳書を受領した1週間後に、自身が契約額の変更対象となると考えた項目と金額を記したリスト(1ページ)を受注者に手渡し、このリストに記された変更金額は150万円の減額であった。

受注者は発注者のリストは受注者の提出した内訳書に従った査定結果でなく、発注者が独自に変更対象項目を定め算出したものであり協議基盤が整っていないため「この状態では協議ができない」と発注者に伝えた。

JV(ジョイント・ベンチャー)とは建設業における共同企業体です。

資金力・技術力・労働力などから見て一企業では請け負うことができない大規模な工事・事業を複数の企業が協力して請け負う事業組織体を指します。

本事案の工事についての解説

本事案の工事について気になった点について解説します。

工事内容と契約

受注者の提示した価格約3億6千万円に対し、発注者の予定価格は約4億5千万円で落札率は80%。

発注者は低価格入札審査の対象とし審査後、契約がなされた。

本工事は役所側が決めた下限額を下回った「低入札工事」であり、予定価よりも9,000万円ほど下回って落札したものということです。

「低入札工事」とは品質の確保等を目的として役所側が定めた下限額を下回って落札した工事を指し、下限額は予定価格の80%で設定されるのが一般的です。

もし下限を下回っていたとしても、例えば「工事で使う資材が倉庫にある」などの納得できる根拠があって役所側が承認すれば低価格入札でも落札となります。

問題の発生

工事の遂行とともに多くの変更事項が顕在化し、最終的に100以上の契約内容の変更が確認されたが受発注者間の合意に至らず、中央建設工事紛争審査会の仲裁に持ち込まれた。

本事案は「公共建築工事」のためにここまで多くの変更が発生したものと考えられます。

道路や堤防などの「公共土木工事」ですとここまでの変更は基本的にありません。

また、発注者支援業務の工事監督業務として件数は少ないですが、こうした建築の支援をすることもあります。

例えば国土交通省の宿舎を建設したり、事務所の建て替えとなると公共工事にあたるために管理をする工事監督業務もあります。

紛争に至った経緯

受発注者間の契約変更協議は発注者の意見で事象が発生した時点ではなく、竣工時に一括して行うことになった。

工事が進むにつれて設計変更が発生し、特に建築は設計変更が多いために都度処理をしていたら受発注者ともに大変なので、竣工直前に一括で精算しようと発注者(役所)が提案し合意したということです。

紛争に至った経緯

受注者は1週間後に101項目の変更工事の内訳書(約90ページ)を作成し発注者に提出し、変更工事の内訳書の総額は約980万円だった。

発注者は受注者から内訳書を受領した1週間後に、自身が契約額の変更対象となると考えた項目と金額を記したリスト(1ページ)を受注者に手渡し、このリストに記された変更金額は150万円の減額であった。

受注者は発注者のリストは受注者の提出した内訳書に従った査定結果でなく、発注者が独自に変更対象項目を定め算出したものであり協議基盤が整っていないため「この状態では協議ができない」と発注者に伝えた。

受注者は「約1,000万円増額してほしい」と内訳書を作成・提出したところ、逆に発注者から「150万円の減額」と言い渡されたということになります。

さらに、業者側が提出したのは90ページにも及ぶ内訳書だったのに対して1ページの内訳書で言い渡されています。

役所側の積算基準に則って精査して150万円の減額という結果になったと思いますが、受注者が納得できずに中央建設工事紛争審査会の仲裁に持ち込まれたのでしょう。

設計変更の精算の後回しからトラブルに繋がることはよくある

今回のように設計変更の精算の後回しは特に役所関係の場合はトラブルの元になってしまうので注意が必要です。

発注者がデベロッパーなどの民間同士であればパワーバランスもありますが交渉の余地はありますが、役所の場合は受注者へ支払いたくても税金のためにルールが定まっています。

そのため、今回のように約1,000万円増額の希望が、逆に150万円の減額となってしまうことも少なくありません。

なお、設計変更は、発注者側の担当者と協議・積算基準の確認・精査を都度することが原則です。

もちろん今回のように100項目の場合はお互いが大変なため一括精算となるのも理解でき、当時は確かに一括精算が一般的でした。

また、こうしたイレギュラーが発生することはよくあり、変更の際には国土交通省が「先行指示書」を受注者へ提出して精算は後日として工事を進めることが一般的です。

今回の事案も15ヵ月の工期がある中で約1年以上精算を後回しにしたツケが残りの2ヵ月で起こったということです。

そのため、こうした「変更に従って工事を止めずに進めて後日お金の精算で揉めること」は発注者支援業務の工事監督業務でいまだによくあるパターンです。

先行指示書とは、設計変更を行う際に契約変更に先だって指示を行う際に提出する指示書で、変更内容に伴う増減額の概算額を記載するものです。

例えば、「掘削していたら師匠物が出てきました、どうしましょうか」と発注者が相談を受け、「取り除いてガラは処分」と先行指示書を受注者へと提出します。

一般的にこうした先行指示書の下には「契約変更についてが後日協議」と書かれていることが多いです。

まとめ

今回は、発注者支援業務の工事監督業務でよくあるトラブル「設計変更での精算でのトラブル」を実例をもとに解説しました。

発注者支援業務の工事監督業務では設計変更の精算を後回しにするリスクについて理解しておくことが重要です。

発注者支援業務で働いてみたいと思う人はぜひ覚えておきましょう。

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