「著しく短い工期」とは?行政指導を受けた工事の実例を解説
2020年に建設業法が改正され、「著しく短い工期」が禁止されました。
「著しく短い工期の禁止」とは建設業法第19条の5にて規定され、違反した場合には「国土交通大臣等は発注者に対して勧告を行うことができ、従わない場合はその旨を公表することができる」とされています。
注文者は、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない。
今回は、「著しく短い工期」と行政指導を受けた工事の実例について解説します。
発注者支援業務で働くなら必ず知っておくべき内容ですので、ぜひご覧ください。
目次
実例:請負額約20億円、工期1年間の民間の建築工事
行政指導された工事は、「工事名は非公表、民間の建築工事で請負額約20億円、工期1年間」の工事です。
それでは、注意喚起に至った経緯を解説します。
注意喚起に至った背景
- 資材価格高騰のため発注者との工事価格交渉が難航し、期間を要した。
- 発注者から施設開始日時の要望(期限の厳守)があり、当初契約時点で工期に余裕がなかった。
例えばこの工事がマンション工事と考えてみます。
発注者は不動産会社であり、資材高騰を工事価格に反映するように交渉をするもそれに時間を要したということです。
工事中のマンションに「分譲中」という文字を目にすることもあるかと思いますが、基本的にマンションは工事の最中に販売され、「来年●月から入居可能」となっていればその日に入居できない場合は大きな問題になります。
このように引き渡し時期があらかじめ決まっていて工事を請け負ったが、そもそも時期をずらせない工事であったものでした。
- 工事開始後も雨天や、2~3週間も機械故障によって進捗に支障をきたし、工期はさらに厳しくなった。
- 元請の工事担当者(所長など)は1ヵ月の工期延期を求めたが、自社の営業担当者の判断で発注者と協議しなかった。
さらに、工期をずらせない中で不測の事態が発生し、現場から1ヵ月の工期延期を求めたがその企業の営業担当者の判断で発注者と協議しませんでした。
自社の営業担当者が発注者と協議しなかった理由は、おそらく少々無理を承知で受注したためにお願いしにくかったのではと考えられます。
または、発注者が前述の資材高騰の交渉で工事価格を妥結する代わりに納期厳守と伝えていたのかもしれません。
- 元請が通常の工程では工期内の完成は無理だと認識したのに発注者と協議せず、土日祝も稼働し下請けに突貫工事をさせた。
着工当初は「4週6休」の予定だったが、工期1年間で着工後4ヵ月を経過したところで「4週4休」となり、着工11ヵ月には「4週0休」の突貫工事となってしまいました。
注意喚起の内容
その結果、行政はなにか罰則を与えたわけではなく注意喚起にはなりますが、以下の対応を行いました。
- 元請が自分の判断で工期について発注者(施主)と協議しなかったのはよろしくないため、元請はもちろん発注者にも注意喚起した。
- 「当初及び工期内で都度の状況を踏まえ、発注者と元請、元請と下請でしっかり協議すること」と注意喚起した。
注意喚起の方法は明示されていませんが、注文をした発注者に役所から「責任の一端がある」と注意喚起ではありますが、行政指導の対象となったことがわかります。
「著しく短い工期の禁止」は発注者支援業務にも関係する
「著しく短い工期の禁止」は国土交通省・NEXCOなどの官民問わない工事に適用され、工事に関わる全ての業者・機関が対象となります。
そのため、「工期だけ守ればいい」という感覚で発注者支援業務を行うと問題が生じてしまう可能性があります。
例えば工事を進める中で元請が下請に「このままだと工期に間に合わないので最後がんばらせよう」とすると法律違反になってしまいます。
もし注意喚起を受けてしまうと公共工事については入札に影響を及ぼすことに繋がってしまうかもしれません。
今後は工期だけでなく元請・下請の労働時間にも注視する必要がある
今後は原則360時間、特別条項720時間という”残業時間の上限”が設けられるため、残業のルールを順守して工期までに終わらせることが求められます。
そのため、今までのように突貫工事で終わらせるのではなく、日々のプロセスから重視する必要があります。
特に発注者支援業務の「工事監督業務」がすべてをチェックする必要はありませんが、工期と職人の就労状態についても注視する必要があります。
なぜなら、「著しく短い工期の禁止」は受注者だけでなく発注者(国土交通省・NEXCO等)にも指導が入るため、発注者側にも管理者責任があるためです。
発注者支援業務の工事監督業務に従事する人は元請・下請の労働時間にも注視する必要が出てくるでしょう。
まとめ
今回は「著しく短い工期の禁止」について行政指導を受けた工事の実例について解説しました。
発注者支援業務の担当者も他人事ではなく、今後は発注者側として「著しく短い工期の禁止」に注意して業務を進める必要があることを認識しておくことが重要です。
発注者支援業務で働いてみたいと思う人はぜひ覚えておきましょう。
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