発注者支援業務でやらない仕事12選!工期も予算も関係なし!?【前編】
発注者支援業務の主な仕事は、民間の工事会社が行った施工の状態や成果物をチェック・検査することです。
つまり民間の元請け会社の仕事とは大きく異なるのですが、何がどう違うのか、はっきりと線引きをできる人は少ないと思います。
そこで、発注者支援業務でやらない民間の施工管理業務を”働く環境編”と”実際に行う作業編”に分け、各6つずつ紹介します。
本記事では”働く環境編”を取り上げ、次の6つを解説します。
- 職人・業者の調整
- 現場への直行直帰
- 朝礼
- 1日中現場にいる
- 実行予算
- 工程管理
それでは順に説明します!
目次
発注者支援業務でやらない仕事1: 職人・業者の調整
民間の施工管理の仕事では、職人の日程や段取り、下請けの調整などがメインになりますが、発注者支援業務ではこちらは関与しません。
なぜなら発注者支援業務の仕事は、あくまで作業の状況や成果物を確認・検査することだからです。
完成に至るまでのプロセスは、発注者支援業務には関係ないということですね。
発注者支援業務でやらない仕事2: 現場への直行直帰
民間の施工管理の現場では、現場への直行直帰が基本です。
現場の事務所へ行って、そこで1日仕事をして、帰宅するというのが1日の流れです。
ミーティングなど特別な場合でもない限り、本社や支店に顔を出すことはありません。
しかし発注者支援業務は、発注者が国土交通省なら、まず国土交通省の事務所に向かいます。
そこで朝のミーティングなどをして、現場へ向かい、臨場や確認が終わったらまた事務所へと戻ってきて帰宅という流れが基本です。
朝が早い、夜が遅いといった場合には直行直帰することもありますが、基本は現場の前後に役所へ入ります。
ちなみに、始業時間も発注者支援業務と民間では少々異なります。
民間企業では朝礼があるため、7時半くらいには出勤するところが大多数でしょう。
一方、国土交通省の発注者支援業務は始業が8時半、都心部の方だと9時15分と、やや遅めのところもあります。
発注者支援業務は役所の始業時間に合わせることになるため、公務員と同じような出勤時間になることが多いのですね。
臨場はそもそも「その場所に臨むこと」という意味を持つ言葉ですが、工事現場の用語としては「施工現場へ赴くこと」を意味し、施工の段階や仕様通りの材料を使用しているかの確認、立会いを行うこと等を含みます。
現在はWeb カメラ等による映像と音声の双方向通信を使用して、段階確認・材料確認・立会いを行う”遠隔臨場”も普及され始めています。
発注者支援業務は定時までに事務所に戻ってくるのか?
おおよその場合は定時に事務所に戻ってきます。
残業もありますが、今は役所も発注者支援業務も残業規制などで厳しくなっているため、残業の上限は原則45時間までと決められています。
よって、発注者支援業務はある程度早めに事務所に帰ってきて、書類業務をこなさなければ、残業扱いとなってしまいます。
一方、建設業の施工管理では現状まだ残業規制がないため、極論を言うと50時間でも60時でも残業可能という理屈になります。
建設業の働き方改革について
2024年4月1日より、建設業においても時間外労働の上限規制が適用されるようになります。
これにより、残業の上限は原則は月45時間、年360時間までとなり、特別な事情がある場合でも単月で100時間未満、複数月平均では80時間以内、年間720時間以内に収める必要があります。
しかし復旧・復興に関わるようなやむ負えない業務の場合は、単月で100時間未満、複数月平均80時間以内の条件は適用されません。
建設業では長時間労働と人材不足の問題を抱えており、特に若い世代の建設従事者が不足していることから、持続可能性が危ぶまれている状況です。
国土交通省でも『建設業働き方改革加速化プログラム』が示されるなど、建設業における働き方改革は緊急の課題となっています。
発注者支援業務でやらない仕事3: 朝礼
前パートからの流れになりますが、元請け業者が行う朝礼も、発注者支援業務にはありません。
朝礼とはそもそも工事の施工の一環として行われるものだからです。
繰り返しになりますが、発注者支援業務の仕事は施工状況・成果物の確認・検査なので、朝礼は関係ないということですね。
発注者支援業務でやらない仕事4: 1日中現場にいる
民間の施工管理の場合、当然ですが出勤してからはずっと現場か現場事務所にいることになります。
ところが発注者支援業務は検査・状況確認するのが仕事なので、そもそも現場に常駐する必要がありません。
大きな工事の場合は一日中生コンクリート打設に立ち会うなんてこともありますが、それは稀なケースです。
一般的に、発注者支援業務の現場滞在時間は1時間から2時間程度でしょう。
その代わり、発注者支援業務は工事を複数担当します。
国土交通省の例では、1人当たり5~10件の工事を担当するので、各現場を1~2時間程度で見て回ることになりますね。
現場事務所とは
現場事務所とは工事を管理するために、敷地内に建てられる仮設の事務所のことです。
プレハブやユニットハウスの形式で建てられることが一般的ですが、敷地が狭い場合は近所の適当な建物を事務所として充てることもあります。
中にはデスクやパソコン、電話などの備品が揃っており、イメージとしては職員がデスクワークをするためのオフィスと考えて良いでしょう。
また現場で作業をする職人の休憩所として併用されていることもあります。
生コンクリート打設とは
鉄筋コンクリートの建物を建造する際は、次のような工程があります。
- 骨格部分として、鉄筋や鉄骨を組み合わせる
- 出来上がった骨格を囲うようにして型枠を作る
- 型枠に生コンクリートを流し込む(体躯の完成)
3番目の生コンクリートを流し込む作業のことを”打設”と言います。
コンクリートを充填する際、棒などで入念に叩いて空気や水を追い出したことが由来とされており、”打ち込み”と呼ばれることもあります。
コンクリートは流し込んでいるうちにどんどん硬貨していくので、打設は入念な準備と時間管理が必要とされます。
さらに、打設によって固まったコンクリートは建物の体躯になるため、非常に重要な工程と言えるでしょう。
発注者支援業務でやらない仕事5: 実行予算の管理
実行予算とは、民間の工事会社やゼネコンなどが工事の利益や工期、期間などを考慮した上で算出する予算のことです。
当然のことですが、民間事業は工事を通じて利益を出さなくてはいけません。
たとえば工事を1億円で受注し、10%の利益を出すとしたら工事は9,000万円で実行する必要があります。
工事を実行するのに必要な予算だから”実行予算”ということですね。
逆に、いくら素晴らしいクオリティの目的物を工期内で仕上げたとしても、工事で1億5000万円かかってしまっては受注した意味がないわけです。
このように実行予算は非常に重要なもので、胃が痛むような想いをすることも多くあります。
予算が厳しい場合は下請けを叩いたり、材料費を値切ったりする必要も出てくるからです。
誰しもお金に追い立てられるようなことは、あまりしたくないですよね。
一方、発注者支援業務には予算関係の業務はありません。
お金に関わる業務としては積算がありますが、積算はあくまで工事にかかる予定価格を弾くことが仕事なので、積算の金額がいくらになったかの結果は関係ありません。
たとえ積算の結果「この橋を作るには3億円かかります」とわかっても、ルール通り作ればなんの問題もないのです。
よって、発注者支援業務は予算がないからという理由で、民間の施工管理から発注者支援業務に入ってくる人も多かったりします。
発注者支援業務でやらない仕事6: 工程管理
工程管理とは、工期を守るためのスケジュール管理を指します。
たとえば、とある建設会社が1年間の工期の工事を請け負ったとします。
着工から半年後には50%くらいの出来高が欲しいなと誰もが考えていました。
しかし実際は30%程度しか出来ていませんでした。
これはよくないケースですよね。
こうなると、発注者支援業務としても「改善をしなさい」という指導は行います。
しかし結局「どう改善するか?」という具体的な施策やアクションは、あくまで施工管理会社が行うものです。
よって、発注者支援業務は具体的な工程管理業務がないと言えます。
仮に工期までに間に合わなかった場合も、役所側・発注者支援業務側もなんらかの責任は負いますが、主な責任を取るのは受注者となります。
このように請負者が工期を守れなかったり、成果品の質が悪かった場合、発注者支援業務の職員が責任を取ることは基本的にありません。
もちろんすべて受注者の責任ということでもありませんが、基本的に施工における工程管理は受注者側の仕事ということです。
なぜなら、工事を請負っているのは受注側であり、請負とは目的物の完成を担保する責任があるからです。
一方、発注者支援業務にそのような権利や義務はないため、具体的な工程管理には口を出さないということになります。
補足:設計変更によるスケジュールの遅延も受注側の責任?
たとえば建築の基礎工事で想定外の地中障害物が出てきて、進捗が大幅に遅れたとします。
ここで遅れをどう取り戻すか考えるのは、前述通り施工会社の仕事でしょうか?
答えはNOです。
なぜなら想定外の地中障害物は、設計変更の問題になるからです。
そうなれば工期の延長は当然考慮されるでしょう。
受注者側の責任となるのは、あくまで発注した工事内容において設計変更が一切なかった場合や、変更があったとしても工期に関係ないような軽微なものだった場合です。
地中障害物とは、地中埋設物とも呼ばれ、地中で撤去されないまま埋没している不要物のことです。
基礎やコンクリートブロックであることがほとんどで、設計図書でその存在が指摘されていれば問題はありません。
しかし設計図書で触れられていなかった場合は、工事の障害となったり、軟弱地盤の原因になる可能性もあるため、受注者は必ず発注者側に報告することされています。
設計変更が認められるケース
いずれの工事においても、設計変更は頻繁に生ずるものです。
ただし、受注者が独自に判断をして施工を実施した場合や、所定の手続きを行わない場合は、設計変更不可とされることもあります。
国土交通省の資料によると、設計変更が可能となるケースは次の通りです。
- 仮設(任意仮設を含む)において、条件明示の有無にかかわらず、当初発注時点で予期しえなかった土質条件や地下水位等が現地で確認された場合
- 発注時点で想定している工事着手時期に、受注者都合ではない原因から工事に着手出来ない場合
- 所定の手続きを行い、発注者の”指示”によるもの
- 受注者が行うべき”設計図書の照査”の範囲を超える作業を実施する場合
- 受注者の都合にかかわらず、工期の延期・短縮を行う際、協議により必要があると認められる場合
- 共有した工事工程表のクリティカルパスに変更が生じ、その変更理由が受注者都合でなく、協議により必要があると認められる場合
まとめ
今回は、発注者支援業務でやらない民間の施工管理業務をテーマに、”働く環境編”として次の6つを解説しました。
- 1. 職人・業者の調整
- 2. 現場への直行直帰
- 3. 朝礼
- 4. 1日中現場にいる
- 5. 実行予算
- 6. 工程管理
出勤時間や業務における責任の所在など、発注者支援業務と民間の施工管理では大きく異なることがわかりましたね。
次回は”実際に行う作業編”として発注者支援業務と民間企業の違いを取り上げ、より具体的な業務面の違いに迫ります!
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